お金と生活の知恵、時々ふつうの30代

少しだけ金融に詳しい普通のサラリーマンが、お金や投資や生活について日々気付いたことをつぶやきます。

「株主優待目当て」に株を買うことについて思うこと の続き

前回の続き、書ききれなかったことがトピックです。

箇条書きにしていて触れられなかった以下の点についてまず説明します。

  • 個人投資家に人気の株主優待がある銘柄の株価は、特有の動きをすることがある
  • 「毎日が優待ライフ~」で過ごそうと思ったら大変な金額を株に投じないといけない(私にとっては優待からは投資のリスクに見合ったリターンは得られない)

個人投資家に人気の株主優待がある銘柄の株価は、特有の動きをすることがある

まずはこちらについて。「株価の動き」に入る前に、まずはその前段の知識として「株主優待はどうやったらもらえるか」について説明します。

株主優待の取得方法

まず、株主優待はどのようにすれば得ることができるのかについてです。

大抵の会社の場合、株主優待を得るためには、特定の日に「株主」になっている必要があります。具体的には「権利確定日」と呼ばれる日に「株主名簿」に自分が載っている必要があって、その名簿に載るためには「権利確定日」を含む日から数えて「3営業日前」までに株を買っている必要があります(その日を「権利付き最終日」と言います)。大体は会社の決算期末の日が「権利確定日」です。

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権利付最終日│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

例えば3月期末の会社で、年に一回だけ株主優待をやっていると、大体は「権利確定日=3月の最終営業日」となり、「権利付き最終日=3月の最終営業日から数えて3日前」になります。3月期末の会社で年に二回株主優待をやっているところだと、権利確定日は3月末と9月末になります。

「権利確定日」やら「権利付き最終日」は元は配当金を受取る権利に関するものですが、優待を実施している会社は優待についても同じ期日を使っている、というわけです。なお、「権利付き最終日」の翌日(=権利確定日の前日・・非常にややこしいです)のことを権利落ち日」と言い、この日以降に株を買っても(今回の)配当や優待をもらう権利は得られません。

権利落ち日│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券

最短の保有期間で「優待目的」で株を買おうとすると起きること

↑のように2021年3月末の株主優待権利を得るためには「遅くとも3月29日中」にその会社の株を買わないといけない、ということが分かりました。

さて、ここで「優待は欲しいけど長い間自分のお金をこの株に投じたままにはしたくない(ほかの用途に使えないから)」と考える人がいたとします。この人が「優待を得るために株を買って持っていないといけない最短期間」はいつか、と考えると、「3月29日に買い、翌日30日に売る」とすれば、優待をもらいながらも自分のお金が株に固定されるのはわずか一日、超効率的でいいじゃん!となります。

しかし、このように考える人が大勢いたとしましょう(実際に結構います)。そうするとどうなるかというと、3月に29日に向けては株を買いたいという人が増え(権利付最終日の29日だけでなく、それよりもう少し前に買っておくか・・という人もいるため)、そして「優待を得た、あとは売ればいい」という、株を売りたいという人が30日からは一気に増えます。

株価は、「買いたい人」と「売りたい人」の多数決・人気投票で決まるようなものなので、↑のような行動が取られると、株価は29日向けて上昇し、30日からはどんと下がる、という現象が起きます。

すると、株主優待目的で「29日に買い、30日に売る」人は、「29日には高値で株を買い、30日はそれより下がった値段で株を売る」ことになります。前記事でも書いたように優待利回りを仮に1%程度とすると、30日に自分が売った株価が買った日よりも1%以上下落していたら、ネットベースでは損をしたことになります。「優待目的で買ったのに株価の売買で結局損した」という、まさに「本末転倒」というやつです。

このような「経験則的に起きることが確認されている事象」のことを「アノマリー」と言いますが、実際に「配当(優待)アノマリー」と呼ばれています。

「優待目的」の「本末転倒」を避けるには

「優待目的でコスパよく株を買って売ろう」とすると、このようなことが起き得ます。なので、優待がいいなーと思っても、その株を買うのはもっともっと前にすべきということになります。そうすると買ってから短期間ですぐに手放しにくくなるので、「優待じゃなくて株価そのものの上昇による譲渡益を狙いましょうよ。それを狙うなら優待の内容だけではなくて会社の業績、競争力、株価の割高・割安指標なども一応考えましょうよ」ということになります。

 

「毎日が優待ライフ~」で過ごそうと思ったら大変な金額を株に投じないといけない(私にとっては優待のみからは株式投資のリスクに見合ったリターンは得られない)

 次はこちらです。見出しの通りです。

例えば、「毎日1,000円相当の株主優待品を日常生活で使うような優待ライフを過ごし過ごすためには、元手としてどの程度のお金を株に投じる必要があるか?」を超ざっくりのトップダウンですがいくつか前提を置いて試算してみると、以下のようになります。

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平均的に優待利回りが1%の株を複数銘柄買って「一日千円優待ライフ」を1年間365日過ごそうと思えば、36,500,000円(3,650万円)分の株を買う必要があることになります。

無論、極端な試算でしょうけど、金額の規模間としては数千万円ということです。ちなみに3,650万円の株のポートフォリオ保有していれば、ふつうに日々の株価変動で一日に0.5~1%くらいは動きますが、1%動けばそのたびに含み損益が+/-36.5万円振れます。普通のサラリーマンの月収分くらいです。「株価が暴落」と言われるような日、例えば3%や5%下がれば、おのおの110万円・180万円の含み損です。普通の人が、こういう変動に精神的に耐えられると思いますか?

他方、得られる優待は「1年間で36.5万円分」です。「普通に投資して優待で得したい」という気持ちの人にとっては、ちょっとリスクに見合わないと思うわけです。

上記の試算は前提を決め打ちして算出したので偏っている、と言われるかもしれないので、以下には「1日当たりに使う優待の金額」(100円~5,000円)と「株主優待利回り」(0.5%~3.0%)を2つの変数として、いくらの初期投資が必要かのマトリックスを作りました。

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この通り、かなりの幅があります。が、いずれにしても大金を投じないと極端な「優待ライフ~」などというのは実現しない、ということです。

そうなると、優待ライフを得るための原資はどうするの?ということになり、まずはその原資として1,000万円オーダーのお金を用意する必要が出てきますが、それだけお金を貯蓄や投資でこしらえることができるなら・・別に小さな優待なんてどうでもよくね?と思ってしまうわけです。だから私は優待は「おまけ・もらえると嬉しいもの・モチベーション維持のためのご褒美」程度の位置づけで考えることにしている、という話です。

 

以上のような「文脈」を踏まえた上で、以下の2つのリンクをご覧ください。少なくとも私は「はぁ。」「・・・。」が出てきた感想でした。

 

あくまで「株主優待の活用方法の一例」として紹介しているのでいちいち目くじら立てるな、と言われればその通りなのですが、私にはこのような「株主優待の紹介」記事は恥ずかしくて書けないと思います。

 

面白いのは、こちらの記事に出てくる「優待女子」の方のプロフィールを拝見すると、「父親の影響で高校生のころから株式投資を始め、現在は約100銘柄を保有している。」とあります。まずはそこに突っ込みを入れたいです。

 

おまけ:株主優待を撤回すると・・ 

株主優待というのは、企業側にするとそれなりの負担です。優待そのもののコストだけでなく、色々な事務的な費用や手間もあります。また、「優待目当て」の個人が群がると(↑のほうでリンクした記事にあるように)株価が優待の権利落ち日前後に大きく振れたりして、本来「安定的な株主を増やしたい、個人投資家へもすそ野を広げたい」という思いとは逆のことが起きたりすることもあります。

そのため、中には「株主優待をやめます」という企業もあります(業績が悪化したためやめる場合もあれば、そうでない場合もある)。そうすると、「優待がなくなるならいいや」と言って保有していが株主が大勢株を売却し、そこでまた株価が下がる、ということが起きます。もしも直前に優待目当てで買っていた人がいたなら、まさに「泣きっ面にハチ」状態です。ご注意を・・。 

おまけ2:20万円以上相当の株主優待を得ると税金が発生します

20万円以上なら「雑所得」の扱いで所得税(⇒確定申告が必要)、20万円以下でもルール上は住民税の課税対象です。念のため・・。

知ってた?株主優待品は税金がかかる!? | トウシル 楽天証券の投資情報メディア