株価の「バリュエーション」とは?りんごを使った例え話
今回は、個別株式投資をしようと思った時に必ず目にする「バリュエーション」についてです。
例によってファイナンス理論的には小難しい説明があったりするのですが、そうではなく日常生活における例え話形式(りんご)を用いて説明したいと思います。
- バリュエーションとは
- 「バリュエーション」を日常生活の例え話にすると?
- 「おいしさの水準に対して価格が割安」のりんごを探し当てるためのイチ指標=バリュエーション
- バリュエーションには普遍的な「適正水準」も「割安な水準」も「割高な水準」も存在しない
- 硬直的な「バリュエーション指標の〇〇で××倍以下なら買い」と断言するようなメディアはゴミです、信じてはいけません
バリュエーションとは
バリュエーションとは、株価(上場している企業の株式の価値指標)を、その企業の中身と比して高いか(「割高」)、安いか(「割安」)、見合っているか(「フェア・バリュー」)を判断するため「測り方」、つまりは「人々がお互いに議論ができるようにするための共通化した物差し」の総称です。正確な和訳は分かりませんが、「投資尺度」などと訳されている例も見ます。
一般的なものにはPER以外にもPBR、EV/EBITDA、PSRなど多数存在し、それらをまとめて「バリュエーション」(Valuation)と呼びます。
Valueという単語の意味
Valueとは名詞の「価値」の意味が一番浮かびやすいですが、「(価値を)評価する」という動詞の意味もあります。I value your opinion (highly) =「私はあなたの意見を(高く)評価する」という意味です。ここで注意なのは、動詞としてのValueは、必ずしもこの例文のように「高い」評価を意味するとは限らない、ということです。
I value your opinon as much as a pile of dog shit と言えば、「私はあなたの意見を犬のクソと同程度に評価する=あなたの意見はクソほどの価値しかありません」という意味です。
話がそれましたが、Valueから派生したValuationという単語でくくられるPERのようなバリュエーション指標はあくまで「人々が共通で語れるように決めておいた物差し」であって、それ自体が適正・割高・割安かが普遍的に決まっているわけではない、ということです。
「バリュエーション」を日常生活の例え話にすると?
「バリュエーションとは株価を評価する物差しの総称」と言ってもピンとこない人も多いと思いますので、以下では私が好きな果物の一つ、「りんご」を使った例えで説明します。
株に対して求めるもの、りんごに対して求めるもの
株を買う時に期待するものというのは、基本的には「金銭的なリターン」であり、具体的には「買った時の株価を上回る水準へ株価が上昇すること」です。りんごの例えでこれに相当しそうなのは、りんごを買う時に期待することが基本的に「おいしさ」であり、具体的には「最低でも価格見合い、できればそれ以上に『おいしかった』と思えること」です。いずれも「払ったお金以上の対価を得たい」ということが共通しており、それをより確実に(はずれを少なく)実現しようと色々と努力をするわけです。
りんごだったらなんでも同じ値段ですか?いいえ、違います
りんごで「払ったお金以上の対価を得たい」と一口に言っても、「激安でそこそこおいしいりんご」も「高くてとてもおいしいりんご」も、どちらも「払ったお金<おいしさ」と思える場合があります。
ですので、りんごの値段は産地・味・ブランド・見た目・大きさなど様々な視点から評価され、値段は様々です。また、同じりんごでもブランド重視でブランドりんごなら高い値段でも買う、という人もいれば、味に定評のあるりんご農園の同じ時期のりんごなら少々見た目が悪くてワケアリとして安く売られているものをあえて買う、という人もいます。更に言えば、同じりんごが大好きな人でも、1年間りんごを食べてないときに買うりんごと、365日りんごを食べ続けたあとの366日目に買うりんごでは、出したいと思う金額は変わるかもしれません。
それでも、「何を重視してりんごを買うか」は人それぞれだとしても「見合った値段or割安な値段でおいしいりんごを食べたる」ために購入判断をするのだと思います。
なお、「ブランドで判断する」という買い方も、(一見するとコスパ重視の人からするとナンセンスに思えるかもしれませんが)「このブランドならそれ相当のおいしさが担保されるだろう」と信じて買っているので、一応その人の中では「おいしいりんご」を求めるための行動としては理にかなっているのです(貧乏性の私には真似できませんが)。
「おいしさの水準に対して価格が割安」のりんごを探し当てるためのイチ指標=バリュエーション
世のりんご愛好家たちが「安くておいしいりんごがあったらすぐに分かる普遍的な指標」を一生懸命探しているとします。以下全くのでたらめですが、その指標の一つに「りんごの表皮についている斑点の数」がおいしさのヒントになる特徴だとしましょう(んなわけない)。
「表皮についている斑点に対する倍率」→名付けてPrice to Hanten ratio、PEHと名付けます。
さて、りんごの値段はPEH何倍になるでしょうか?
・・を考える前に、りんごにはいくつ斑点がついているかを知る必要があります。品種Aのりんごは斑点が約20~30個、品種Bは同30~40個あるものとします(※実際はもっと多いでしょうし当然ばらつきがありますが、例え話の便宜上このような設定にしてます)。
この情報だけで、以下の記述で正しいと言えるものはあるでしょうか?
- A種のりんごの適正価格は常にPEH 15倍、B種のりんごは同20倍である
- A種のりんごの過去3年の平均PEHは13倍だったけど、今年は15倍で評価されているのは高すぎであり、買うべきではない
- このりんごはB種なのに、斑点が20個しかない!価格は(斑点30個のりんごと同じ)600円・・ということはPEHは600円÷20個=30倍。割高だから買わない!
- りんごとは(品種を問わず)PEH 10倍以下なら安いので、スーパーで見つけたら買うべき
どれも正しいどころか、ナンセンスですよね。
1. A種のりんごの適正価格は常にPEH 15倍、B種のりんごは同20倍である
⇒同じ品種でも(a)その年の出来、その個体の熟し具合、店頭に並んでからの日数・・等々によって変わるから、常に同じPEH(=同じ値段)なわけねーだろ
2. A種のりんごの過去3年の平均PEHは13倍だったけど、今年は15倍で評価されているのは高すぎで、買うべきではない
⇒過去3年のりんごと今年のりんごでは同じ品種でも(a)のだから、例えば今年はたまたま不作で収穫量が少ない中で、とてもおいしくそだったりんごだったら、対価として300円払っても決して高くないかもしれない
3. このりんごはB種なのに、斑点が20個しかない!価格は(斑点30個のりんごと同じ)600円・・ということはPEHは600円÷20個=30倍。割高だから買わない!
⇒B種のりんごのおいしさを決めるのは斑点の数ではない(一つの指標かもしれないけど、それだけではおいしさは決まらない)ので、計算上PEHが30倍でも割高とは限らない
4. りんごとは(品種を問わず)PEH 10倍以下なら安いので、スーパーで見つけたら買うべき
⇒え、おバカですか?世のりんごと主フに謝罪してこい
とこんな具合です。
バリュエーションには普遍的な「適正水準」も「割安な水準」も「割高な水準」も存在しない
PERやPBRというバリュエーション指標について、よく「低PER銘柄特集」を投資メディアが掲載していたり、「PERが〇倍以下なら割安」というような書かれ方を目にします。
上記のりんごの例を踏まえると、このような書き口のメディアはゴミみたいなものだと思いませんか?りんごに固定的な「あるべきPEH」は存在せず、様々な条件により変動しうるのと同じように、PERにも「何倍だったら必ず安い・高いと言える」ような固定的な水準は存在しません。究極的には全て「時と場合と銘柄による」のです。
硬直的な「バリュエーション指標の〇〇で××倍以下なら買い」と断言するようなメディアはゴミです、信じてはいけません
バリュエーションは同じ品種のりんごでも異なりうるというメッセージが伝わったでしょうか。
他にも、株価のバリュエーション指標における考え方をりんごに例えて示します。
- おいしいか否かが分からないりんごには高いバリュエーションを付与しにくい(すなわち、不透明、不確実、不安定なものは割引される)⇔業績の安定性、将来が見通しやすい企業には高いバリュエーションが付与されやすい(「プレミアム」が付与される)
- 沢山のりんごが入った袋でのまとめ売りは価格が安い(大小良し悪し混在、一部のりんごは隠れていて状態が見えない等)⇔企業の株価バリュエーションに付与される「コングロマリットディスカウント」と言い、「よくわからないものはその単品・個別の価格の合計値よりも割り引いた対価しか払いたくない」
などなど。
このテーマは意外に奥が深いので、また考えが整理できたら追加していきたいと思います。