東レの社長インタビューが驚きの内容すぎた(その1)
今日は最近読んだ週刊東洋経済の記事についてです(無料登録で全編が読めます)。
前編:
後編:
日本を代表する素材メーカー東レの社長ロングインタビューです。東レと言えば炭素繊維、ユニクロとの協業、スポーツのスポンサー(テニスの東レパンパシフィックオープンや、バレーボールチーム)としてよく知られています。企業としては研究開発熱心で良くも悪くも「経団連代表」というイメージがありますが、独特なこの社長含めて割と好きです。
社長はなかなか歯に衣着せぬ物言いで、昨今のコーポ―レートガバナンスでの「欧米に倣え」という風潮を批判している記事です。まあ、東洋経済の記者は社長のしゃべりに圧倒されて、あまりバランスの取れた記事にするということはできなかったのかな?という気もしましたが、いずれにせよ、読んでみるとこれまたなかなか一方的な記事でした。
一応私も金融・証券業界に身を置くものなので、その観点からいくつか気になったコメントをピックアップしたいと思います。もっとも、金融業界だろうとなかろうと「ちょっとこれはないんじゃ・・」と思う部分もありましたが・・。
「欧米追従」に見えるガバナンスコードについて
――企業経営の形やガバナンスコードを欧米追従にすることには反対ですか。
まあ、向こうのコードも、内容自体を見るとそんなに変なことは書かれていない。「企業価値」を高めましょうとかね。ただし、彼らが言っている企業価値というのは株価、いわゆる時価総額だ。
→Wrong。「とにかく株価を・時価総額を」という発想は大元のアメリカでも既に時代遅れとなっています。そのひずみが色々なところで出てきているということは誰もが認めるところです。その解決策が見つかり、過去のコトになったとはまだまだ言えませんが。確かに色々ある「企業価値」の測り方の中には時価総額が大部分を構成するEnterprise valueというのもありますが、これは時価総額に加えて有利子負債も含んだトータルの価値指標です。しかし、どちらかというと「効率性」を重視しますので、ROEやROICと呼ばれる指標も見ます。
しかし、究極的には「将来にわたってどれだけキャッシュを創出できるか」が最も重要で、それを見る手段としての指標の中に上のものがある、と言えます(そしてその「前提」として、最近はESGの観点が乗っています。これはまたいずれ別途)。
気になったので東レの過去の業績データや時価総額推移を調べてみました。その結果、以下のようなことが分かりました。
東レは数十年の長期で見るとほとんどキャッシュを生んでません(下記図表1)。
また、株価(時価総額)も上がったり下がったりを繰り返していて最終的にはほとんど変わっていません(図表2)。
会社資料や決算での経営陣のコメント等を見ますと、どうも一番こだわっているのは「売上高を伸ばすこと(売上を伸ばせがあとのことはついてくる)」である、と感じました。実際、売上高は過去から見ると比較的順調に伸びてきています(図表3)。しかし、その売上をいくら増やしたところで、キャッシュが生まれなければ「効率性」は低いままで「企業価値」(その定義が時価総額だろうがなんだろうが)が高まることも難しいのが実情です。
図表1:東レのフリーキャッシュフロー(FCF=営業CF+投資CF)と、対売上高FCF比率(1999年度~2020年度、22年間)
図表2:東レの時価総額と対TOPIX相対株価(1999年1月~)
図表3:東レの連結売上高(1999年度~2020年度、22年間)
ちなみに図表1で示しているFCFマージン(ある年のFCFを売上高で割った数値)というのは私は製造業においてはしっかり見るべき指標だと思っています。キャッシュフローの絶対値はもちろん大事ですが、それを稼ぐためには大元となる売上をいくら必要としているか?を見られるためです。
東レの場合、99年度~20年度の22年間の累計FCFは2,305億円で、22年間の単純平均は104億円/年です。同期間の平均売上高は1.6兆円強でしたので、
累計FCFマージン:104億円÷1.6兆円=0.7%
・・・え?計算が間違っていないか確認してしまったくらいに低く、驚きました。
例えるならば、過去22年間売上高は着実に伸ばしてきていてその期間の平均年商が500万円の花屋さんが、商売から得たキャッシュ(売上から人件費、賃料、水道光熱費、色んな消耗品等を引いた残り)から設備投資(お花を育てる工場とか)を引いた累計の手元に残ったお金がたったの72万円!というのに等しく、商売をやっていた期間と額面の売上に対して微々たる額(というか誤差の範囲)です。ちなみにその間の累計売上高は1億1,000万円になります。(※キャッシュフローの中身はあくまでイメージですが、悪しからず)。
このように、FCFとはざっくり言いますと「営業CF(事業収入から費用を引いて残ったお金)」から「投資CF(毎年実施する設備投資や資産取得にかかるお金)」を引いたものですから、東レの場合も「事業で得た所得と、それを生み出すために使ったお金がほとんどチャラ」ということになります。これでは「企業価値」が高まってきているとはいいがたいです。
もしかしますと、社長が「企業価値(彼の中では≒時価総額)」を目の敵にしているかのように見えるのは、自社の時価総額も「企業価値」も増加していないことへの苛立ちの表れなのではないでしょうか。
長くなってしまいましたので、後編に続きます。
ふるさと納税の履歴管理エクセル作りました
今日はふるさと納税マニアを自認する私の「ふるさと納税履歴管理」についてです。
ふるさと納税についての説明はもっと詳しいサイトに譲りますが、実質2,000円の出費と引き換えに一定金額までの「返礼品」を受取ることができるありがたい制度です。その上限は所得によって段階的に決まっていき、数少ない「累進的」にふるさと納税の使える枠が増えていくものになっています。
ふるさと納税は「ふるさとチョイス」などがメジャーのポータルサイトになっていて、そこでの自分のログイン画面で過去の寄附履歴を見ることができます。
しかし、「どこのなににいつ寄附したか」以上の情報(返礼品の感想、配送までにかかった時間など)を記録することはできません。また、視覚的に「自分のふるさと納税の上限額はいくらくらいで、現在までにいくら使っていて、このペースだといつなくなるか」を見ることもできません。
そこで、自分用にエクセルで管理するようにしました。
このファイルでは、まず自分で「寄附上限額」を左上の赤いセルに入力します。そしてその後寄附をするたびにその日付、寄付金額、内容などを記録すると、色々一目瞭然になります。
趣味がエクセルの者としては自分でこれを使うだけでも十分の(ただの)自己満足ですが、せっかくブログを作ったので紹介してみました。
こちら(Google drive)にエクセルファイルをZipファイルに圧縮して保存しましたので、どなたでもダウンロードできます。よろしければご活用ください。
いい加減な「持ち家か賃貸か論争の決着」記事について
今日はこちらの記事についての「感想」を述べたいと思います。
(※記事が古いのは、2018年にこの記事を見つけた当時「なんじゃこりゃ」と思っていつか感想を書こうと保存しておいたのを、3年の時を経て封印を解いたためです)
持ち家か賃貸か:筆者にとっての正解は「持ち家」で、なおかつ「資産価値の高い持ち家を買いなさい」ということだそうです
では、どんな家を買えばいいのか。ずばり、資産価値の高い家です。
家計は複式簿記の考え方が大切です。バランスシートで資産と負債のバランスをほどよく保つためには、資産価値の高い(資産価値の下がらない)物件を選ぶべきです。
正直申しますと何をおっしゃっているのかよく分かりませんでした。頑張って紐解いていこうと思います。
- 可能なら持ち家を購入しよう、なぜなら「老後対策」になるから
- すぐに資産価値が低下するような物件だと不測の事態が起きたときに家の価値が下落し、慌てて売却しても借金が残るリスクがあるので、資産価値の高い(下がらない)家を選ぶべし
- しかし老後にローンを抱えるとリスクなので定年までにはローン残債がない状態の家を確保すべし
- 資産価値の高い家とは「交通の便良し、生活インフラ充実、環境良し、近隣住民・管理の質良し」のことで、(素人でも)これを条件として目利きすべし
- しかし「80歳までの住宅ローン」といった無理な資金計画は論外で身の丈に合った金額の住宅を購入すべし
大体こんな感じかと思いますが、箇条書きにするのに随分苦労しました。
おそれながら端的に申しますと相反するような関係にある(値段が高すぎないけど資産価値は高い家とか)条件をばらばらと述べただけでほとんど役に立たないアドバイスだなと思います。
「資産価値の高い家を買いなさい⇔しかし高い家を買って老後までローンが残るようなことは避けなさい」
とおっしゃっていますが、そこまで「好条件」の物件は当然に価格が高いため、それを買おうとしたら筆者が避けるべしと言っている「身の丈に合わない高額の住宅を購入」に結果的になり得るでしょう。よほどの掘り出し物なら可能かもしれませんが、それを一般人が当たり前のように手に入れるのは困難だと思います。
また、筆者は公認会計士の方だということで、複式簿記の概念を紹介して(冒頭の引用部分の後半部)「資産と負債のバランスをとるべし」とおっしゃっていますが、価値の高い資産を買うと(ローンで買っている人は)同時に「負債」も増えるわけです。単にバランスしているかどうかばかりを気にして負債そのものの規模(収入に対する比率など)は無視していては「不測の事態」が起きたときに借金の返済が滞ってしまって破綻リスクが高まることは自明でしょう。これは企業について言えば「どんなに借金を増やしても構わないので、とにかく高級な製造設備に投資をしましょう」と言っているようなものですが、そのような会社は金利が上昇したり不況になったりしたときに破綻リスクが高い・・ということは公認会計士の方でしたら当然ご存じです。
以下の点をよく確認してください、とのことですが:
- 交通の便がよいこと(駅徒歩7分以内、通勤に便利な路線、急行停車駅、都心に直結した路線であればなおよい)
- 病院、郵便局、銀行、スーパー、学校(子どもがいる場合)が近いこと
- 環境(治安、道路状況、近隣住民の質など)がよいこと
- マンションの場合、住民の質、管理の質がよいこと
このような好条件揃った中古不動産はそこら中に転がっているわけではありませんので、価格も相当に割高にならざるを得ないと思います。また、「近隣住民の質」のようなことを一般人が正確に判断できるものでしょうか。この筆者は「定年までローンが残らない」ようなお値打ち価格の物件を見つけるツテでもお持ちなのかもしれませんが、「一生に一度や二度の買い物」の一般人がそれを探し当て、しかも他の購入希望者に取られることなく、割高な価格を提示することもなく入手することのハードルはなかなか高いと想像できます。
つまるところ、この筆者の主張通りに理想の持ち家を探し選び買える状況というのは、極端に言えば日本中で購入する持ち家を探しているのが自分一人で(=「良い物件」を取り合う競争相手が存在しない)、物件候補はふんだんにある(=素人でもたくさん吟味すれば種々の条件をしっかり満たす物件を探し当てることができる)、という極端な状況下ということになります。
・・といった具合になんともいい加減な記事だなとというのが私の個人的な感想でした。いったい何の目的でこの媒体はこの記事を載せたのか・・ああそうか「持ち家・賃貸論争」がアツいからとりあえずそのタイトルの記事を載せてみたわけですね失礼いたしました。
というわけで記事のサブタイトルに「公認会計士が『論争』に決着をつける」とありましたが、決着がつくどころかずさん適当いい加減ミスリーディング矛盾だらけな記事であることに異論をつけようがないという意味でのみ「決着」がついたのではないかと思います。本日はこの辺りで失礼いたします。
「積立投資」の大きなメリット: 「売り時を考える労力」を省けること
今回は、以前のこちらのエントリーのフォローアップです。
「自分は、実際のところ、どの程度投資に時間や集中力と言った「限られた資源」を割けるのか?」を十分自問自答して、ある程度レンジでもよいので答えを出してから投資は始めるべきだと思います。そして、最初から投入労力は大でOK、バンバンハイリスク商品に投資するぞ、というのはやめるべきで、自分に問うた上で最初はリスクが相対的に控えめなところから始めるべきと思います。
投入労力「大」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「大」
投入労力「小」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「小」
↑この辺りについての補足です。
「投入労力「小」」のもう一つ大切なポイント:「売り時を考える労力」
こちらのエントリーを書いた時は、主に「金融商品を選び、購入するまで」の「投入労力」について書いていました。
しかし、もう一つ同じくらい「労力」(や手間)がかかること・・それは、買ったあとの「売り時を考える労力」です。
いや、買うときはいい。買うときは、将来値上がりするかもしれない、保有していれば配当(分配金)がもらえる、優待ももらえる、と言った具合に、クリスマスやお誕生日を前に楽しみで仕方ない子供のように前向きな気持ちでいることも多いです。
しかし、売り時を考えるのはなかなか大変で、迷ったり悩んだりすることも多いです(と言うか、はっきりとした定量的な「売却ルール」を設定していなければ大抵は多かれ少なかれ悩みます)。売るタイミングについては、(↓にリンクしている過去の投稿にもあるように)、売ってその後もっと値上がりをすれば売ったことを後悔し、売らずにその後下がり続けても当然後悔します。ですので、これをいちいち考えなくてもよいというのは、心労・手間の削減という意味で非常に大きいです。
しかし、これは十分に認識されているとは到底言えません。特に投資・資産運用初心者に対してはほとんど説明がなされていないと思います。それどころか「株 売り時」とグーグル検索すると山ほどヒットが出てくることからも分かるように、みなどのようにして売れば良いかをばかり一生懸命考えている様子がうかがえます。だからこそ、
- 売り時をいちいち考えなくてもよいということは非常に大きな強みであり、精神的負担・金銭的損失の回避につながる
- 故に「続けること(やめないこと)」がカギである積立投資は「投入労力「小」」の初心者には向いている
- そして(投資を続けていれば必ず訪れる)下落局面でも狼狽して売ってしまおうか・やめてしまおうかと悩む必要がなくなる
ということへの理解をいただけるように丁寧に説明を続けないといけないと思います。
(再掲)「安く買って高く売ればいい」の実践は難しい
「積立投資はやめなさい、安く買って高く売れば良い」は実践がとても難しい - お金と生活の知恵、時々ふつうの30代 からの再掲になります。
以下のケース1、ケース2は同じ会社の異なる時期の株価のチャートで、ここから上がったか・下がったか、グラフを見ただけで(大して悩まずに)自信をもって答えられますか?
ケース1
ケース2
これは特定の株の価格推移チャートですが、投資信託でも同じで、このような場面で保有を継続するか、売却をするかの意思決定をするのはなかなか精神に堪えます(大幅に値上がりした後だとなおのこと)。しかし10年20年タームで積立を継続する運用方法であればそのような悩みから解放されます(そして大きな損失を確定させてしまったりということも避けられます)。
さて、下には種明かしです。
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おしまい
「株主優待目当て」に株を買うことについて思うこと の続き
前回の続き、書ききれなかったことがトピックです。
箇条書きにしていて触れられなかった以下の点についてまず説明します。
- 個人投資家に人気の株主優待がある銘柄の株価は、特有の動きをすることがある
- 「毎日が優待ライフ~」で過ごそうと思ったら大変な金額を株に投じないといけない(私にとっては優待からは投資のリスクに見合ったリターンは得られない)
個人投資家に人気の株主優待がある銘柄の株価は、特有の動きをすることがある
まずはこちらについて。「株価の動き」に入る前に、まずはその前段の知識として「株主優待はどうやったらもらえるか」について説明します。
株主優待の取得方法
まず、株主優待はどのようにすれば得ることができるのかについてです。
大抵の会社の場合、株主優待を得るためには、特定の日に「株主」になっている必要があります。具体的には「権利確定日」と呼ばれる日に「株主名簿」に自分が載っている必要があって、その名簿に載るためには「権利確定日」を含む日から数えて「3営業日前」までに株を買っている必要があります(その日を「権利付き最終日」と言います)。大体は会社の決算期末の日が「権利確定日」です。
権利付最終日│初めてでもわかりやすい用語集│SMBC日興証券
例えば3月期末の会社で、年に一回だけ株主優待をやっていると、大体は「権利確定日=3月の最終営業日」となり、「権利付き最終日=3月の最終営業日から数えて3日前」になります。3月期末の会社で年に二回株主優待をやっているところだと、権利確定日は3月末と9月末になります。
「権利確定日」やら「権利付き最終日」は元は配当金を受取る権利に関するものですが、優待を実施している会社は優待についても同じ期日を使っている、というわけです。なお、「権利付き最終日」の翌日(=権利確定日の前日・・非常にややこしいです)のことを「権利落ち日」と言い、この日以降に株を買っても(今回の)配当や優待をもらう権利は得られません。
最短の保有期間で「優待目的」で株を買おうとすると起きること
↑のように2021年3月末の株主優待権利を得るためには「遅くとも3月29日中」にその会社の株を買わないといけない、ということが分かりました。
さて、ここで「優待は欲しいけど長い間自分のお金をこの株に投じたままにはしたくない(ほかの用途に使えないから)」と考える人がいたとします。この人が「優待を得るために株を買って持っていないといけない最短期間」はいつか、と考えると、「3月29日に買い、翌日30日に売る」とすれば、優待をもらいながらも自分のお金が株に固定されるのはわずか一日、超効率的でいいじゃん!となります。
しかし、このように考える人が大勢いたとしましょう(実際に結構います)。そうするとどうなるかというと、3月に29日に向けては株を買いたいという人が増え(権利付最終日の29日だけでなく、それよりもう少し前に買っておくか・・という人もいるため)、そして「優待を得た、あとは売ればいい」という、株を売りたいという人が30日からは一気に増えます。
株価は、「買いたい人」と「売りたい人」の多数決・人気投票で決まるようなものなので、↑のような行動が取られると、株価は29日向けて上昇し、30日からはどんと下がる、という現象が起きます。
すると、株主優待目的で「29日に買い、30日に売る」人は、「29日には高値で株を買い、30日はそれより下がった値段で株を売る」ことになります。前記事でも書いたように優待利回りを仮に1%程度とすると、30日に自分が売った株価が買った日よりも1%以上下落していたら、ネットベースでは損をしたことになります。「優待目的で買ったのに株価の売買で結局損した」という、まさに「本末転倒」というやつです。
このような「経験則的に起きることが確認されている事象」のことを「アノマリー」と言いますが、実際に「配当(優待)アノマリー」と呼ばれています。
「優待目的」の「本末転倒」を避けるには
「優待目的でコスパよく株を買って売ろう」とすると、このようなことが起き得ます。なので、優待がいいなーと思っても、その株を買うのはもっともっと前にすべきということになります。そうすると買ってから短期間ですぐに手放しにくくなるので、「優待じゃなくて株価そのものの上昇による譲渡益を狙いましょうよ。それを狙うなら優待の内容だけではなくて会社の業績、競争力、株価の割高・割安指標なども一応考えましょうよ」ということになります。
「毎日が優待ライフ~」で過ごそうと思ったら大変な金額を株に投じないといけない(私にとっては優待のみからは株式投資のリスクに見合ったリターンは得られない)
次はこちらです。見出しの通りです。
例えば、「毎日1,000円相当の株主優待品を日常生活で使うような優待ライフを過ごし過ごすためには、元手としてどの程度のお金を株に投じる必要があるか?」を超ざっくりのトップダウンですがいくつか前提を置いて試算してみると、以下のようになります。
平均的に優待利回りが1%の株を複数銘柄買って「一日千円優待ライフ」を1年間365日過ごそうと思えば、36,500,000円(3,650万円)分の株を買う必要があることになります。
無論、極端な試算でしょうけど、金額の規模間としては数千万円ということです。ちなみに3,650万円の株のポートフォリオを保有していれば、ふつうに日々の株価変動で一日に0.5~1%くらいは動きますが、1%動けばそのたびに含み損益が+/-36.5万円振れます。普通のサラリーマンの月収分くらいです。「株価が暴落」と言われるような日、例えば3%や5%下がれば、おのおの110万円・180万円の含み損です。普通の人が、こういう変動に精神的に耐えられると思いますか?
他方、得られる優待は「1年間で36.5万円分」です。「普通に投資して優待で得したい」という気持ちの人にとっては、ちょっとリスクに見合わないと思うわけです。
上記の試算は前提を決め打ちして算出したので偏っている、と言われるかもしれないので、以下には「1日当たりに使う優待の金額」(100円~5,000円)と「株主優待利回り」(0.5%~3.0%)を2つの変数として、いくらの初期投資が必要かのマトリックスを作りました。
この通り、かなりの幅があります。が、いずれにしても大金を投じないと極端な「優待ライフ~」などというのは実現しない、ということです。
そうなると、優待ライフを得るための原資はどうするの?ということになり、まずはその原資として1,000万円オーダーのお金を用意する必要が出てきますが、それだけお金を貯蓄や投資でこしらえることができるなら・・別に小さな優待なんてどうでもよくね?と思ってしまうわけです。だから私は優待は「おまけ・もらえると嬉しいもの・モチベーション維持のためのご褒美」程度の位置づけで考えることにしている、という話です。
以上のような「文脈」を踏まえた上で、以下の2つのリンクをご覧ください。少なくとも私は「はぁ。」「・・・。」が出てきた感想でした。
あくまで「株主優待の活用方法の一例」として紹介しているのでいちいち目くじら立てるな、と言われればその通りなのですが、私にはこのような「株主優待の紹介」記事は恥ずかしくて書けないと思います。
面白いのは、こちらの記事に出てくる「優待女子」の方のプロフィールを拝見すると、「父親の影響で高校生のころから株式投資を始め、現在は約100銘柄を保有している。」とあります。まずはそこに突っ込みを入れたいです。
おまけ:株主優待を撤回すると・・
株主優待というのは、企業側にするとそれなりの負担です。優待そのもののコストだけでなく、色々な事務的な費用や手間もあります。また、「優待目当て」の個人が群がると(↑のほうでリンクした記事にあるように)株価が優待の権利落ち日前後に大きく振れたりして、本来「安定的な株主を増やしたい、個人投資家へもすそ野を広げたい」という思いとは逆のことが起きたりすることもあります。
そのため、中には「株主優待をやめます」という企業もあります(業績が悪化したためやめる場合もあれば、そうでない場合もある)。そうすると、「優待がなくなるならいいや」と言って保有していが株主が大勢株を売却し、そこでまた株価が下がる、ということが起きます。もしも直前に優待目当てで買っていた人がいたなら、まさに「泣きっ面にハチ」状態です。ご注意を・・。
おまけ2:20万円以上相当の株主優待を得ると税金が発生します
20万円以上なら「雑所得」の扱いで所得税(⇒確定申告が必要)、20万円以下でもルール上は住民税の課税対象です。念のため・・。
「株主優待目当て」に株を買うことについて思うこと
6月下旬は株主総会の季節です(もう7月ですが)。それに伴い、期末の配当や会社によっては株主優待が送られてくる季節でもあります。株式投資界隈のニュースとかを見ていると「優待が届いた」とかそういうのをよく見かけます。
株主優待(会社によって保有株数・保有期間に応じてギフトとかをもらえる制度)は、「ちょっとしたボーナス」を得られるような感じがするので、それはそれで株式投資の一つの楽しみ方だと思います。ですが、株を買う目的が「優待目当て」になってしまうと本末転倒になるリスクがあるなあ・・と思います。
株主優待に対する私の基本的な考え方
- 買った株に優待制度があればラッキーだが、優待制度ありきで(優待目的で)株は買わない
- 個人投資家に人気の株主優待がある銘柄の株価は、特有の動きをすることがある
- 「毎日が優待ライフ~」で過ごそうと思ったら大変な金額を株に投じないといけない(私にとっては優待からは投資のリスクに見合ったリターンは得られない)
- (以下ループ)結論:株は「株価の上昇」を主たる目的として買うものであり、株主優待はあくまで「おまけ」であり、優待ありきで株を買おうとすると本末転倒になりかねない
株主優待を持ち上げるメディア媒体に対する私の不満
- 株主優待の利回りはとても良くても2~3%程度で、多くはこれよりもかなり低い(1%未満とか)→優待そのものの経済的便益はそれほど大きくはないのに、やたらと持ち上げられていること
- 優待によって得られる利回りよりも株価の変動による損益影響の方がはるかに大きいにもかかわらず、株主優待を持ち上げているようなウェブ記事では「元本の値動き(株価自体の変動)による損益変動」にほとんど触れられていないこと
(※利回り:得られるものの価値÷得るのに投じた金額。株主優待の場合は、「優待品の価値÷必要な株を買うのに投じた金額」)
具体的な株主優待の例と、その優待利回りの考え方
ではまず初めに株主優待の実例を見てみます。
「株主優待ランキング」なるものがあったので、それを参考に仮に上位に入っている優待銘柄を買った場合のことを考えてみます。こちら:
株主優待人気ランキング2021年版:マイベスト総合 | 知って得する株主優待
この中からいくつか、優待品の金額が分かりやすいものをピックアップしてみます。
すかいらーくホールディングス(3197)の場合
https://yutai.net-ir.ne.jp/company/3197/
ランキングでは2位に入っています。
すかいらーくの優待は「レストラン株主優待カード」というもので、特に株を保有する最低単位(100株)を買って保有していると、年に2回2,000円分の株主優待カードがもらえるそうです。
以下が、この株主優待で得られる優待利回り算出に必要な算数です:
この通り、(今の株価1,550円で計算すると)155,000円分のすかいらーくの株(=100株)を買うと、2,000円分のレストランカードがもらえ、これは利回りとしては2.6%に相当する、ということです。
この2.6%、優待利回りとしてはかなり高い部類に入ると思います。いいですね。
日本たばこ産業(2914)の場合
続いて4位に入っている日本たばこ産業(JT)です。私はたばこが大嫌いです。
中身はよくわかりませんが、数千円「相当」の自社グループ商品がもらえるそうです。こういうタイプの優待だと、カタログから選ぶというのが多いですがJTはどうなんでしょうね。
同様に、この株主優待で得られる優待利回り算出に必要な算数です:
優待利回りは保有株数によってまちまちですが、100株だけ持った場合が1.2%と最も高く、優待内容がランクアップするにつれて、「JT株に投資が必要な最低金額」に対しては利回りは低下していくようです。私はたばこが大嫌いです。
明治ホールディングス(2269)の場合
最後は8位の明治ホールディングスです。世の中によく知れたブランドです。ウェブページの写真ではお菓子やカレーのルー等が3,500円相当の詰め合わせではもらえるようです。
同様に、この株主優待で得られる優待利回り算出に必要な算数です:
なんと、優待利回りはたばこ屋さんよりも低いようです。それでも8位にランクインするんですね‥。
以上のように、私がネットで適当に見つけた「株主優待ランキング」で2位、4位、8位に入る企業の優待を調べたところ、株主優待利回りは高くて2.6%、低くて0.3%程度でした。これを見るに、株主優待でのランキングは純粋な「優待から得られる経済的な便益」ではなく、「(身近なブランドやお店で使えるという)親近感・お得感・イメージ」が大きく影響していると推察されます。
株主優待をもらうことによって得られる癒し効果やほっこり感を重視しているなら、それは個々の価値観でありこれらを買うことにはなんら異議はありません。しかし「優待は本当にお得である(経済的なメリットが有意なレベルで存在する)」と主張するとしたら、それは言いすぎだと思います。
(補足ですが、上で算出した「優待利回り」はあくまで「その株を買った(と仮定する)時の株価に基づく利回り」でしかないので、買ったあとに株価が下がればその時点での利回りは上昇し、逆に株価が上昇すれば利回りは下がることになります。)
「優待で得られる経済的便益<<<優待を得るために買った株の価格変動による含み損益の振れ」という事実
上記の3社について、直近2年間の株価推移のグラフを下に示します。「優待で得られる利回り(せいぜい1~2%)」と、「株価の騰落率」を比べてその規模感の違いを確認するためです。
見ての通り、(目視ですが)3銘柄いずれについても過去2年間の株価の大体の平均水準と高値圏・底値圏の乖離率を出すと、+/-14%~+/-19%となりました。高値圏と底値圏の乖離も30-50%くらい値差があります。
「優待の利回りが〇〇%」と1桁前半%の中での高低をいくら議論しても、一歩下がって株価を見ればそれよりも10倍オーダーで大きな変動があるということです。
2%の優待利回りを手にしても、株を買った時と比べて株価が10%下落していたら、(もしもその時点で売却したら)トータルでは当初投じた金額の8%程度の損失になります。
繰り返しですが、無論、だから株主優待銘柄を買うべきではない、と言っているわけではありません。あくまで「優待を目当てに・優待ありきで」買うと、その経済的便益の小ささにギャップを感じる可能性があるため、やるべきではない、という考えです。特に、投資に振り向けられる原資が有限の我々一般人の多くは「優待目的」で買うべきではないと思います。
逆に、「優待目的」で株を買っても別に良いと思える人物像をあえて挙げるとすると、「キャッシュが余って余って仕方ないんだ、使う予定もないし、預金で寝かせているだけなくらいなら株に投じて配当と優待をもらって楽しもう。株価が下落?大丈夫、倒産して株価がゼロにならなければ、いつか株を買った頃の値段に戻ってくれさえすればOK。何年でも気長に待てるよ~」という人です。周囲にそういう人がいたら教えてください。おともだちに(以下略
株価は様々な要因により下がることもあれば当然上がることもあります。ですので、「優待目当て」で買った銘柄でも、ふたを開けてみれば株価そのものが何十%も上昇した、ということもあり得るわけです。
「株主優待」や「配当利回り」で過去5年間に日本たばこ産業の株を買った人の末路
最後に、JTの過去10年の株価推移チャートです。
株価はピークから半値以下ですので、配当や株主優待の分の価値は株価下落による元本棄損で軽く吹き飛んでいるはずです。
これを見てもなお、JTを「高配当銘柄!」「株主優待銘柄!」と言って騒ぎ立てますか??
長くなってしまったので、次回へ続きます。
私の投資信託(インデックス型)の投資先の配分の決め方
今日は、私が自分の積立投資でどのような資産の種類・地域に投資しているかを自分なりの理由とともに説明してみたいと思います。
投資の資金源:確定拠出年金と自己資金
まずは資金源の話です。見出しの通り、積立投資の原資としては二つあり、一つは会社員として加入している確定拠出年金の掛け金です。これは会社が負担してくれる上、運用中の収益も非課税ですので、税金面で有利なので使わない手はありません(60歳台以降に給付として受け取るときは課税される可能性がありますが、それでも総じてお得)。
もう一つは自己資金です。そのままです。確定拠出年金の掛け金は上限が決まっていて、自分が1年あたりに積み立てたい金額より少ないので、自分の貯蓄からも別途投資しているわけです。
もう一つ、税制上有利になる利用すべきものとしてはNISAがありますが、(細かい説明はここでは省きますが)私は積立投資の枠としては今は利用していません(その代わり、1年間当たり120万円のNISA非課税投資枠は個別の株式への投資に使っています)。
↑のグラフの通り、私は毎月一定額を積立投資に回しています。
投資先のアセットクラス(資産の種類)
前回の記事の通り、私は多少リスクが大きめであることを承知の上で「株式」に投資しています。積立投資なので、個別の株式ではなく、「株の詰め合わせ」である株式の投資信託にしています。それも、特に凝ったような・かっこつけたものではなく、「各国を代表するような株式指数に大体連動するようになっているインデックス型投資信託」にしています。
そうと決めたら、次は「どこの国・地域」か、です。株式のインデックスファンドには、大きくいくつかの種類があります。
- 日本の株式のインデックスファンド
- 先進国の詰め合わせのインデックスファンド
- 新興国の詰め合わせのインデックスファンド
- 世界中の主要な国々の詰め合わせのインデックスファンド(※日本を含むもの・含まないものもある)
結論から言うと、私は2.と3.のタイプの投資信託を50%ずつ(つまり毎月同額ずつ)買っています。つまりこういうことです:
シンプルですね。
しかしここで疑問がわくかもしれません。
「4.の『世界中の主要な国々の詰め合わせのインデックスファンド』を買えば、2.と3.を兼ねたことになりそうだが、なぜわざわざ2.と3.を別々に購入するのか?」
理由は、「それぞれのインデックスファンドでは、中身を構成する国々の構成比が違うから、4.だけを買うより2.と3.を別々で買った方が自分がよいなと思う国別の構成比になるから」です。
毎月の積立投資先国別構成比
まず、4.のタイプの実際にある投資信託(例:eMaxis Slim全世界株式(オール・カントリー))の、投資先の国別構成比のグラフです:
見ての通り、アメリカ58%を筆頭に、先進国が全体の88%を占めていて、新興国は12%しかありません。こういう株式のインデックスファンドというものは、おおむね「世界の各国の株式市場の金額規模を反映」しているので、世界で断トツに株式市場の規模がでかいアメリカが断トツにウェイトが大きくなってしまいます。注意したいのは、「株式市場の規模」はGDPにも人口にも軍事力にも平均身長にも連動するわけではないということです。あくまで「上場している企業の数と各企業の時価総額の掛け算」が基本です。なので、「資本主義の中心地、アメリカが圧倒的に高いウェイトを占めても構わない!アメリカの株式市場が今後も世界をリードする!」と思えばこういうファンドを買えばよいと思います(なお、「全世界株式」タイプでも日本を含むもの・含まないものがあるので、それもお好みです)。
一方、私はアメリカが大きなウェイトを占めるのは結構ですが、6割はちょっと大きいなあ・・と思ったので、その比率を意図的に押し下げるために「先進国の詰め合わせのインデックスファンド」と「新興国の詰め合わせのインデックスファンド」を50%ずつ投資することにしました。
と言ってもこれも特段にアカデミックな根拠があるわけではなく、「アメリカは今後も成長するだろうから、大きめのウェイトで持つのは問題ない。けど数十年スパンで考えたら、『万が一今のアメリカの株式市場一強』状態が崩れた場合に、その受け皿となりうる他国もある程度バランスよく持っていたい」という程度の、ふんわりとした理由です。
すると、投資先の国別構成比は、こうなります:
先進国:新興国比率は50:50になり(さっきのは88:12)、アメリカの構成比は36%まで下がりました。代わりに新興国の比率が高まった分だけ中国が21%までになり、台湾や韓国、インドもそこそこの比率になりました。別に「ぴったりこの国は何%」と決めているわけではなく、ざっくりでもう少しバランスが取れた配分にしたかったので、便宜上50:50で買うことにした、という程度の話です。
更にもう一つ理由を挙げるとすれば、私は日本に住む日本人ですので、「日本落ちぶれリスク」をヘッジする(=そうなったときにリスクを回避できるようにと思って打つ手のこと)という意味で、あえて新興国の比率を高めにした、とも言えます。日本がやられるとすると(現にやられているのは)、それは今更先進国の皆さんにやられるのではなく、アジア各国に色々追い抜かされるケースが多いので、まあそうなるならせめて「その国々(中国韓国台湾インドとか)の経済が大きくなる→それらの国々の株式の価値が上昇する→このインデックスファンドを持つことで私がその恩恵を多少なりとも受けられる」ようにしておこう、という感じです。
日本株には投資しないのか?
毎月の投資先の商品(投資信託)を決めて証券口座で設定さえしてしまえば、あとは勝手に毎月積立で投資されていくので、放っておくだけです(世界の株が上がった時も下がった時もこの積立のルールはいじりません)。そういう意味で、これは私にとっては「投入労力『小』→リターンもそこそこでいい」という分類の投資です。
私にとっての「投入労力『大』→許容できる投資リスクも『大』⇔リターンもそれなりに『大』を狙いたい」が、「個別の日本株に投資する」こととしています。
なので、積立投資では日本以外の市場を対象にして、個別株投資は多少知見なり経験がある日本株でやる、という方針を取っています。
まとめ:私の株式投資における投入労量(許容リスク)と地域別エクスポージャー
まとめると、以下のマトリックスが私のリスク資産(株式)への投資に対するスタンスみたいなものです。
(※個別株の中には投入労力がさほど大きくないものもあるので、「中~大」の範囲としました)
厳密に言うと、「株式の投資信託」の「資産としての価格変動リスク」はそれなりに高いです。けど、私の中における、「これを管理するために必要な投入労力・手間」は小さい、と認識しているので、「許容リスク」も「小」としています。
以上、ふんわりながらも私の積立投資の投資先配分の考え方について説明しました。
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なぜ人に「何に投資すればいい?」と聞かれても答えにくいのか
最近のテーマの続きで、今日は「なぜ人に『何に投資すればいいかな?』と聞かれても答えにくいか」について。
前々回:投資をする前に問うべきこと:「自分はどれだけの時間・労力・手間を投資に振り向けられるのか?」 - お金と生活の知恵、時々ふつうの30代
前回:楽して大きな投資リターンが得られそう・・と思うような勧誘や宣伝にはNOを - お金と生活の知恵、時々ふつうの30代
投資をしようと思ったら、
投入労力「大」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「大」
投入労力「小」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「小」
と原則考えるべきで、その上で最初はリスクが相対的に控えめなところから始める(=投入労力「小」⇔許容する投資リスクも「小」)ことをお勧めする、と書きました。
しかし、この原則を具体的な投資アイディアに落とし込むためには、投資をしようと思う人がまず「自分は、実際のところ、どの程度投資に時間や集中力と言った「限られた資源」を割けるのか?」をよく考えて、どう思っているかを私によく説明し、やり取りをして納得してからでないと、こちらも安易に投資対象をお勧めしにくいのです。
投資には「これが万人にベスト」というものは存在しないので、その人のリスク許容度に見合ったものに納得してもらった上で投資しないと、例えば一時的に資産価値が大きく下がった時などの心労やストレスに耐えられなくなり、それではいいことナシです。
だから、これから初めて投資をするという人には、結果的に「インデックス連動の低コスト投資信託の〇〇あたりが良いと思うよ」という話になります。
ただ、これはちょっと↑の原則と矛盾するように聞こえなくもないのですが、私はこれから初めて投資なり資産運用をしようという人にでも「株式指数に連動する投資信託」を勧めると思います。なぜなら、過去の40年くらいの色々な時期に日経平均に積立投資を今日まで続けるというシミュレーションをしたら、どの時期に開始したとしてもリターンはプラスになったということを自分で計算してみて確認したからです。無論、「今後も(過去のように)確実にリターンがプラスになる」とは断言できないものの、「地球が終わり人類が破滅しなければ高い確率で長期間にわたってこの投資を続けた場合にはプラスのリターンが得られる」くらいは言えると思っています(そもそも、地球が破滅する危機に直面していたら投資とかもうどーでもいいことになっててまずは生き延びることに必死になっているはずです)。
そして、結果的に私の中では「株式という、比較的変動幅が大きい資産に投資するというリスクの増大」よりも「インデックスファンドに投資することで市場全体に分散投資する効果を得ることによるリスクの低減」が上回っていると考えていると言えそうです。
バブル前から今日まで日経平均に積立投資を続けた場合、バブル崩壊の長期低迷期を含めても最終的にはプラスになっている
いつかその計算(シミュレーション)も紹介したいと思いますが、簡単に言うと、「日経225に色んな開始時期のパターンで積立投資をして最近まで続けたとした場合、リターンはプラスになるか?(どの程度のプラスになるか?)」をエクセルでマニアックに計算してみました。
その開始時期を1980年(バブルよりだいぶ前)、1987年(バブル前夜)、2000年(ITバブル前夜)というような一見「最悪のタイミング」で積立投資をしたとしても、結論としては積立投資をやめずに続けていたなら今日現在どのパターンでもかなり資産は増えていました(余談ですがバブル後の低迷期間中ずうっと心が折れずに積立投資を続けることができる精神力があれば、もうあなた何やっても成功するよ‥と言いたい)。
ご存じのように20年30年40年タームで見ると日本の株価(代表して日経平均のような株価指数)はほとんど上がってないわけなので、この同じ積立投資を「アメリカ株」のような長期的に見て水準が上がり続けてきた市場のインデックスで実践すればさらにパフォーマンスのプラス幅は大きいです。
なのでそういう過去の結果を説明し、大前提として「何があっても(暴落しても)投資を凍結したりやめたりしないこと」をしっかり理解してもらった上であれば、私は本来比較的騰落の幅が大きい資産の種類である「株式」ではありますが「インデックス連動型の投資信託」であればお勧めします。そしてそれは「投入労力「小」」の人にも本質的にはフィットするものだと思っています。
じゃあ株式インデックスなら日本株?海外の株?・・という疑問もあるはずなので、そのうち私が自分の積立投資でどういう配分にしているかをその理由とともに説明してみたいと思います。→こちら
楽して大きな投資リターンが得られそう・・と思うような勧誘や宣伝にはNOを
前回は、
- 「自分は、実際のところ、どの程度投資に時間や集中力と言った「限られた資源」を割けるのか?」を十分自問自答し
- 自分の投入労力と釣り合いの取れたリスクを持つ金融商品に投資するという視点を持ち
- その上で最初はリスクが相対的に控えめなところから始めることを推奨する
という話をしました。
投資をする前に問うべきこと:「自分はどれだけの時間・労力・手間を投資に振り向けられるのか?」 - お金と生活の知恵、時々ふつうの30代
式っぽくすると、こんな風に:
投入労力「大」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「大」
投入労力「小」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「小」
そして、この原則に反するような投資への取り組み方はやめるべき、というのが今日の話です。
そもそも:投資における「絶対」「確実」「楽して」儲かるという話は眉唾もの
これは原則ではなく、鉄則です。投資とは未来の不確実性そのものなのに、「絶対儲かる」「確実に稼げる」「楽して殖やせる」などという文言は信用すべきではありません。
ここで、ヤフーファイナンスのような投資関連のウェブページを使っていると出てくる宣伝の一部を紹介しましょう:
改めて眺めてみると、どれも非常に香ばしい宣伝文句で生温かい気持ちになりました。
一つ一つコメントしても仕方ないので、以下箇条書きに。
- 「簡単さ」をアピール
- 「これから上がる(今が買い時)の銘柄を教えてくれるとアピール
- 「この情報は当たる」ことをアピール
その前に、まず投資における鉄則をもう一つ。
多くの人が手に入れられる情報はすぐに陳腐化して価値がなくなる(それをもとに投資をしても成果は得られない)。すなわち、簡単に手に入るような情報は、「多くの他の人が既に入手している情報」なので投資の成果に結びつきにくい。
1.「簡単さ」をアピール:そこまで「簡単」だと知っていて、大きな投資の成果が得られるなら、不特定多数の人に親切に教えずに自分でその「簡単」な投資を実践して果実を得るのが合理的なはずなので、おかしい。
2.「これから上がる(今が買い時)の銘柄を教えてくれるとアピール:そこまで「これから上がる」と知っていて、以下同文
3.「この情報は当たる」ことをアピール:そこまで「この情報は当たる」以下同文
まあこんなところです(大体自明です)。そしてそれでも「簡単に」「当たる」情報を教えてくれるとしたら、それはそれ相応の見返りを得られると思っているからということで、その見返りを払うのはこういうのを信じてしまった人々になります。
楽して(=投入労力「小」)たくさん儲かる(=「大きな」リスクを取らないと本来得ることができない規模の儲け)ことはない。少なくとも継続的には
前述の式っぽいやつで言うと、
投入労力「小」 ⇔ 自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「小」
を実践するのではなく、
投入労力は「小」だけどリスクは「大」=大して時間も労力も手間も掛けてないのにそれに見合わない大きな投資成果を(楽して)得ようとする
ということになります。まあ、大体失敗するか、あるいはカモられることになると思います。あるいは最初は甘い汁を吸わせてもらうけど後々それをはるかに上回る損をすることになるのでやめておいた方がよいです。
違うアプローチとして、この手のサービスに高い会費やらセミナー費やらを払った人が「これだけ高額なお金を払っているんだからきっとそれに見合う情報やリターンが得られるはず」と思いたい気持ちは理解できますが、それも多分カモにされてると思います。「サンク・コスト」てやつです。
(参考:サンク・コスト説明https://www.leadplus.net/blog/sunk-cost-and-business.html)
そんなところです。
投資をする前に問うべきこと:「自分はどれだけの時間・労力・手間を投資に振り向けられるのか?」
前投稿(↓)の続きです。
こちらの記事について書いてみようと思います(Part2)。
いくつか主張をなさっていますが、主なものの一つとして、
- 「積立型の投資信託」で「投資」や「運用」するのはおやめなさい
というのがありました。
具体的には、「ドル・コスト平均法」という、定期的に(例えば毎月、決まった日に)一定額を買って積み立てていく方法で投資信託を買うことに対する批判です。
(※ドル・コスト平均法の概要説明は↓辺りで解説)
ドル・コスト平均法とは?上手に利用するための2つのポイント | みずほ銀行
確かに、「安く買って高く売る」ことを確実性高く行うことができるなら、ドル・コスト平均法などという手法は用いず、安いと思ったところで買い、高いと思ったところで売れば良いのです。そして世界一のお金持ちになればいいのです。しかしそれは実は大変難しいのだよ、ということを前回書きました。
インデックス連動タイプの投資信託にはドル・コスト平均法は最適
投資信託と言っても色々な種類・目的のものがあります。代表的なところだと、例えばテーマファンドなどと言われるものは「その時の流行に投資したい、けど個別の株を買うのではなく詰め合わせで買いたい」人が買う投資信託(ロボット、5G、バイオ、とか)。あとは一般化したインデックスファンド(特定の株式などの指数と概ね連動するように設計された投資信託)。
私は後者のインデックスファンドしか自分でも買いませんが、まさにこのような地域・資産の種類(例:株・債券)等色んな意味で分散した投資信託を買うにはドル・コスト平均法は最適なわけです。前述の分散に加え、ドルコスト平均法で買うことで時間の分散も図れるので。
まあしかしこの話はもうよく知られたことで、何も目新しさはありません。ただ、私が「ドル・コスト平均法で投資信託(基本インデックスファンドのみ)を買う」理由は別にも一つあります。
それは、「大して時間や手間をかけないことと引き換えに、長期の時間軸でそこそこのリターンを得るには投資信託をドル・コスト平均法で買うのが適当」と思うためです。キモは、「大した時間や手間をかけない」という割り切りで、それ相応のリターンがあればよい、ということです。逆に、「それなりに多くの時間や手間」をかけて調べた個別株への投資には、より大きなリターンを追求したいわけです。この両方を同時並行的に使い分けています。
金融商品への投資を検討する時に、自分に問うべきこと
どんな金融商品を買おうか、と考えた時(個別株、投資信託(株だけ、債券だけ、コモディティ、REIT、これらの組み合わせ等)、最近だとビットコインに代表される暗号通貨とか)、人々はどのような自分の基準を当てはめて選ぶのでしょうか?当然「儲かるもの」と言いたいところですが、それ以外で挙げると、
- リスクの大きさ(上がるとき・下がるときの振れ幅の大きさ)
- 投資先の分散度合い
- 手数料
辺りが定番でしょうか。そして個別株にしても投資信託にしても、その中身(個別株ならその会社が事業を行っている産業の成長性、その会社の競争優位性、財務の状態、割高・割安かの各種指標等)がさらに色々とあって、実際に買うにあたっては吟味しないといけません。
これらに加えて、実際には考えるべきだけどあまり考慮されないのが、「自分はどれだけの時間・労力・手間(代表して「投入労力」とでも呼びましょう)をこの金融商品につぎ込めるか(つぎ込みたいか)」ということです。
例えば、一日24時間のうち睡眠8時間、仕事4時間、投資に10時間・・という配分でハッピーですという人なら、投資先についてこれでもかというくらいに調べまくるでしょうから、その分だけリスクが高いと言われる金融商品に資金を投じるのは構わないと思います。そしてめでたく高いリターンを得ることができたら単純におめでとうだし、失敗して大きく損をしても(それだけ事前に労量を投入しているので)何がうまくいかなかったかなどの振り返りから次への示唆や教訓を得ることができるので、良いと思います。
しかし、家庭や仕事に投じる時間が多く、投資に対して割ける投入労力が限定的な人(多くの人はこっちだと思います)は、自分の投入労力と釣り合いの取れたリスクを持つ金融商品に投資する、という視点も持つべきだと思います。
式っぽくすると:
「自分のポートフォリオ全体として」とわざわざ書くのは、例えば投入労力「小」の人でも投資資金100万円のうちの一部分(10万とか20万とか)を比較的ハイリスクな個別株に投じてもよいと思いますが、大部分は分散されてリスクも比較的小さめの商品に投資すべき、と考えるからです。
やってはいけないのは、投入労力「小」なのにポートフォリオ全体としてリスクの大きい金融商品に資金の大部分を投じてしまっているパターンです。これをやると、結局は日々の評価額の振れに一喜一憂した挙句、暴落でもしたら我慢ができなくなって最悪のタイミングで損切りをしてしまったりするわけです。そしてそのような火傷を負った人は二度と投資などしなくなり、↑の記事の執筆者のような投資に対して否定的な意見を見ると「そうだそうだ、投資をやらないと損だとかあほなことを言うな、ちゃんと現金を持っていればいいんだ」と全力で同意することしかしなくなるのだと思います。
なので、「自分は、実際のところ、どの程度投資に時間や集中力と言った「限られた資源」を割けるのか?」を十分自問自答して、ある程度レンジでもよいので答えを出してから投資は始めるべきだと思います。そして、最初から投入労力は大でOK、バンバンハイリスク商品に投資するぞ、というのはやめるべきで、自分に問うた上で最初はリスクが相対的に控えめなところから始めるべきと思います。
そして、それに最適なのが、投資先が分散された金融商品(例:インデックスファンド)に、時間の分散を加えた手法(例:ドル・コスト平均法)での投資である、と思うわけです。
つまり、リンク先の記事で書かれているように(自分の判断に自信を持った人が)「安いところでたくさん買い、高くなったところで売る」ことをしたいなら、そもそも投資信託が投資先であるべきではないのです。その意味で、記事の批判は的外れだなあと思った次第です。
さて、投入労力「小」⇔自分のポートフォリオ全体として許容できる投資リスクも「小」と書きましたが、この絡みで投資をしたいという人が手を出すべきではないことについて今度書こうと思います。
予告として、例えばこういうやつです: